連載第12回 ハナヤマ

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パーティではおなじみのビンゴカードです。
ありふれているように思われるのですが、一社がほぼ独占して製造しています。


● パーティを盛り上げる用品
結婚式、同窓会、誕生会などのパーティでは、ビンゴゲームが行われることが多くなった。乱数の数字を縦横に印刷したカードを使って遊ぶもので、抽選機から取り出したボールの数字とカードに印刷された数字が一致して、当たりが縦横斜めに一列に並ぶと勝つゲームである。手軽に大人数で遊ぶことができ、会場を盛り上げることができるためパーティでは必需品となっている。
市川市にあるハナヤマ(小林邦巌社長)はビンゴカードの生産で市場をほぼ独占している企業である。
● 会社の承継
ハナヤマは昭和八年に室内ゲーム用品のメーカーとして産声をあげた歴史のある企業で、戦後はバンカース、モノポリー、人生ゲームなどを発売してきた。社名には馴染みが薄いが、子供の頃に六角形の盤にプラスチックの駒を差し込むダイヤモンドゲームで遊ばれた記憶のある方は多いのではなかろうか。昭和三十年代にダイヤモンドゲームを大ヒットさせたのがハナヤマである。一時は関西の任天堂と並びゲーム用品では有名であったが、業績が悪化したため身売りされることになった。以前からハナヤマに印刷の下請けで出入りしていた現社長の小林氏が、昭和四十七年に商権と人材を引き取ることになった。小林氏は既に陽光社という印刷会社を経営しており、二つの会社を同時に運営することになった。
● ビンゴとの出会い
引き受けた赤字会社の再建が一段落した小林社長は、次にヒットする商品を開発するために海外のゲームの情報を集めることにした。これは海外の商品を真似するのではなく、新商品の開拓であった。ゲーム用品業界では自社で商品開発することもあるが、他社が開発したゲームの版権やゲーム作家の著作物を買い取り、独占的に販売することは慣習となっているからである。
昭和五十三年頃、或る商社から「香港でビンゴゲームという玩具が流行っている」という話を聞きつけた。それまで国内には無かったゲームであり、小林社長は香港まで赴いて調査した。現地で見たビンゴゲームのルールは現在と同じであったが、ゲームで使用する道具が全く違っていた。プラスチックの板に数字を印刷し、スライドするカバーで抽選された数字を覆っていくもので、パターン数も少ないものであったがこれから日本でブームになると見込まれた。
帰国してから日本の実情に合わせて改良することにした。素材を厚紙とし、パーティなどでグラスを持ちながら空いてる他の手で遊べることを考慮して、縦横十センチ程の大きさとした。数字の配置は縦横五列とし、数字を印刷した部分を逆U字形に型抜きすることにした。抽選した数字と一致した数字の部分を曲げ、当たり数字として記憶させるためである。極めてシンプルな形状で、発売から二十年以上も経った現在もほぼ同じ構造となっている。手のひらの上で遊ぶゲームであることから、終極的にはこの大きさと構造に集約されるのではなかろうか。
こうして新商品として市場に販売することになったが、毎年売り上げが伸び、十年程で現在の売り上げとほぼ同じ水準に達成させることができた。特に広告を出して宣伝することもしなかったが順調に成長していった。全国に強力な販路を持つ玩具問屋と結びついたことも要因であったが、時代が後押ししてくれた幸運も大きかった。その頃からベビーブーマーによる結婚式が増加し、式場でカードが使用されて口コミで広がったのである。また、バブル期になりつつある時で、企業では盛んにパーティを催すようになり、その会場でも使用されたからだ。
● 成功した理由
現在、ハナヤマはビンゴカードの市場で八十%近くを占めているが、これは先発社としてのメリット以外に複数の要因があった。
カードの印刷は同じ社屋にある関連の陽光社で行っているが、陽光社の業務は厚紙の印刷と型抜きに特化している。この業務は、カード製造の作業と完全に一致しているため製造コストを合理化できた。また、早い時期にカードのパターンを増やしたことも他社が追従できない原因である。カードには縦横に区切られた二十五の枡があり、それらの升に一から七十五までの数字を乱数で配置していくのだが、大人数でゲームをしたとき同じパターンのカードが配られると複数の勝者が発生してしまう。このようなミスを避けるにはカードのパターン数を増やさなければならない。発売初期は三百パターンであったため、三百人のゲームが限度であった。現在は六千通りのパターンでカードを印刷しており、六千人が一度にゲームすることができる(一時は一万二千種類のパターンを用意したが、在庫管理が大変なので減少させた)。これだけのパターンを用意するには六千種類の印刷原板が必要となるが、ハナヤマでは早い時期に原板を作成してしまった。これから他社が同じ種類のパターンの原板を用意するとなれば膨大な先行投資が必要となり、新しく参入してもメリットがないからである。
肝心なことであるが、ビンゴカードは一回のゲームでカードを折り曲げるため使い捨てである。パーティでゲームが行われたならば確実に消費され、毎年利益が出るドル箱の商品である。ハナヤマは各種のゲーム用品を販売していて、ビンゴカードは商品群の一つでしかない。しかし、他の商品は木質や金属製であり、数カ月から数年は保有されるものであり、毎年のように確実な利益が生じるものではない。ハナヤマにとってはビンゴカードは恒久的に利益を確保できる商品なのである。
● これからの展開
ビンゴゲームはルールが単純なため老若男女を問わず参加でき、安価に大人数で遊べることから根強い人気がある。だが、パーティや催物会場でしか使われない特殊性から、景気の波に左右される欠点がある。また、中国製の安価なカードが百円ショップなどで目立つようになった。今後も売上高を確保するとなれば、市場でのシェアーを高水準に維持しなければならない。このため、ハナヤマではカードの差別化を図ることにした。ディズニーなどのキャラクターを印刷したり、点字を印刷したりして、顧客にカードの選択範囲を広げ、市場でのシェアーを落とさない努力している。