福祉機器展での車椅子の展示エリアは、あたかもモーターショーのよう感じであった。
車椅子はもう中小企業が参入できる業界ではなくなってきた。
年1回に開催される『国際福祉機器展』に出掛けてみた。福祉というと老人介護を連想されるかもしれないが、身体障害者、知能障害者も含まれていて幅広いものである。しかし、見本市に出店している企業は老人介護を目標とした商品を展示している所が目立つ。これは介護保健制度により、老人介護には巨額の補助金が交付されるからである。この補助金を目当てにして、蜜にたかる蟻のように数多くの企業が介護の新製品を出品しているのが現実である。来場者は介護施設の職員か、介護用品を使用している障害者である。会場には車椅子で新商品を見学にきている障害者の姿が目立っていた。
介護用品の筆頭といえば『車椅子』である。介護保健法が制定された年の福祉機器展では、全国から車椅子を試作した中小企業が数多く参加してきた。それらは90社近くまで数えられた。なるほど、車椅子は障害者にとって必需品であり、製造も比較的簡単である。これが商機だと考えたのだろう、今まで鉄工所などを経営していたような中小零細企業までもが車椅子の製作に取りかかったようだった。しかし、現実は厳しくて、安価な車椅子は中国製が一万円以下で進出し、電動の高級品では昨今に始めたような新規参入企業では製造が難しい。毎年の福祉機器展の回を重ねる度に、車椅子を出品する企業の数は減っていった。世のなかが福祉に向かっている、といっても技術や企画力の無い中小企業が出る幕ではないのが判ったのであろう。しかし、性懲りもなく今年も新規参入を目指した詰めの甘い中小企業が車椅子を出品しているのが見受けられた。人真似をした商品を開発せず、オリジナルで独創的な介護商品を開発すべきであろう。
今年は、車椅子を出品した企業のブースが会場の1/3の面積を占めていた。しかも、日産、トヨタといった大手自動車メーカーも新商品を出品していて、大企業も福祉の世界に乗り込んできた様子が伺われた。益々、中小零細企業が新たに進出する業界ではなくなってきた。特に、自動車メーカーの開発した車椅子は、技術力があることから完成度が高く、零細企業では真似ができないレベルに達していた。このような大企業が試作した車椅子を観察すれば、中小零細企業の経営者はこれから新しく車椅子を開発しようという横着な考えが無くなるはずである。
上の写真は車椅子に試乗する障害者である。身体障害者にとっては車椅子は生活の必需品であることから、使いやすい車椅子を常に求めている。このため、福祉機器展ではそのような新型の車椅子を探しに来ている障害者も多い。このため、年一回開催される福祉機器展はあたかも『日本モーターショー』のような感じであった。新型の自動車を見るために見本市に出掛けるドライバーと、新型の車椅子を見るために見本市に出掛ける障害者とは共通した心理があるのではなかろうか。
中段の写真は、階段を昇り降りできる車椅子の補助具である。この手の新商品は毎年のように出品されるのだが、実際に使っている場面を見たことがない。多分、それほど実用的ではないのであろう。
下段の写真は車椅子をそのまま乗せ、操縦者ごと移動できるトレーラーである。平たい車体の上に車椅子を搭載し、後ろに介護者が立って乗り、電動で移動できるものである。かなり大げさな装置になるのだが、このような商品の用途はあるのだろうか。多分、数台は売れるかもしれないが、それ以上に広く利用されることもないであろう。実際の介護の現場を知らない技術者が考えたものであろう。
2005年10月6日