進むも決断ですが、止めるのも決断です。
戦略を間違えたなら傷を浅くして撤退するのも人生です。
「中小企業総合展」の会場でみかけた売れない商品です。これはトイレットペーパーを自動的に切断するロールペーパーホルダーです。内部に電池とモーターが入れてあり、前部のボタンをタッチすると、予め設定した長さにトイレットペーパーが繰り出されて切断される、というものです。
こんな商品は絶対に売れません。なぜなら、日常トイレで使用する商品ですが、万一電池が切れたり、故障したときはどうなるのでしょうか。日常生活に必要な商品は、故障しないことが一番なのです。ロール式のトイレットペーパーはもう数十年も使われてきましたが、現在どこでも使われている単純な構造になったのはそれが一番壊れなくて使いやすいからです。電動にしてみても価格が高いだけで何のメリットもありません。
しかし、このような面白商品はマスコミで取り上げてくれることが多く、テレビの番組では扱い易い商品です。このため、新製品紹介のテレビ番組で取り上げてくれると、開発者としては「マスコミが認めたのだから絶対売れる」と確信してさらに販売にがむしゃらになっていく傾向にあります。また、世の中には小金を持っていて目新しい商品を好む人種がいて、数百台程度は必ずうれるようです。だが、それは一過性のものであって継続して売れるものではありません。発売から半年もするとほとんど注文が来なくなります。その時点で商品開発に失敗した、と悟って販売を中止するのが良いのですが、中には固執して継続する開発者も見かけられます。そうなると、財産を食い潰すことになって、最後はどうなるのでしょうか。商品開発にはアイデアも必要なのですが、マーケットがどのようになっているか、社会がどの程度まで必要としているか、までを推測しなければなりません。目新しいだけであっては利益のある商品を開発できないのです。
この商品を眺めていて、そばにいた説明員に「この商品は売れないな」と言ったところ、説明員はカンカンになって怒っていました。それはそうでしょう。「これは売れるはずだ」、と確信して見本市に出品しているところに冷水を浴びせられたようなものなんですから。しかし、他人からの客観的な注意を冷静に聞きとめるだけの心のゆとりがなければ商売は成功しません。
2006年12月9日